NFTの「所有権」って法的なの? 知っておくべき、NFTを活用したデジタル資産ブームの裏側とは

NFTの「所有権」って法的なの? 知っておくべき、NFTを活用したデジタル資産ブームの裏側とは

いたるところで見られるデジタル資産ブームの火付け役「NFT」。デジタルコンテンツの所有権という考えがベースですが、そもそもNFTの所有権とは法で守られたものなのでしょうか。また、NFT化された盗難アートの存在や、アーティストとNFTとの深い関係性など、知っておくべきNFTを活用したデジタル資産ブームの裏側を解説します。

デジタル資産ブームの火付け役NFTはいたるところに登場

ブロックチェーン技術のひとつとして注目されてきたNFTですが、今年に入り、アート、エンターテインメント、スポーツ、音楽、メディア業界など、あらゆる分野に受け入れられ、デジタル資産ブームの火付け役になっています。

デジタル資産の所有権とは?

その背景には、資産として価値があるデジタルデータ、デジタルアセットの所有権という考えがベースにあります。つまり、価値があるデジタルデータを所有しているという感覚のことです。

例えば、約547.9万人のTwitterフォロワーを持つ、米TwitterとSquare CEOのジャック・ドーシー。彼は、「Valuables」というNFT市場で、自身の初ツィートをオークションに出品しました。なんとその落札額、291万5835ドル(約3億1640万円)()! 

ところが落札後も彼のツィートは誰にでも見られ、それをスキャンしたり、コピーしたりもできます。そんなデジタル上の有体物ではなく、誰でも複製できるものを“所有する”というのは、具体的にどういうことなのでしょうか。

NFTは、鑑定書のようなものだとイメージしてください。でも紙でつくられた鑑定書ではなく、それは固有の文字列からなります。例えば、女優のリンジー・ローハンが制作したデジタルアート作品のNFTは、0x60f80121c31a0d46b5279700f9df786054aa5ee5です()。

この文字列は、ビットコインなどの暗号通貨と同じコンセプトのブロックチェーンに接続されています。主な違いは、ビットコインは代替可能であること、つまり本質的に同じであるということに対して、NFTは代替不可能で、1つ1つが固有のものになります。つまり、コピーはできても、所有権に関しては一点モノということです。

たとえデジタル上で見たり、飾ったりすることを他の人とシェアしても、NFT上のアート作品やデジタルコンテンツのオーナーは所有者のみ。そこに価値があると見なします。そしてNFTの所有権は転売出来るので、NFTマーケットの動きに応じて買ったよりも高く売ることで、大きな利益が得られる可能性もあります。

このような考えをベースに、「NFTはデータの所有を可能にする」、「NFT保有者はデジタルアートやデジタルキャラクターの所有権や著作権を取得する」などとも言われることがあります。では法的に見て、この表現は正しいのでしょうか。

日本におけるNFT所有権の考え方

そこで参考になるのが法の専門家の意見です。

こちらでは、主に暗号資産・ブロックチェーン関連のFintech案件や知的著作権分野を取り扱う専門弁護士が、NFTと法律について解説しています。そして、日本の法律において、NFTに関して誤解を抱かないための以下の3つのポイントが挙げられています。

  • 日本法上、データのような無体物に所有権は認められないと考えられており、「デジタル所有権」という権利も法定されていない
  • NFTはあくまでブロックチェーン上で発行されたトークンにすぎず、NFTを移転したからといってブロックチェーン外で行われる権利の移転、すなわち当事者間の合意(契約)の成立を意味するものでもない
  • そもそも「NFTの売買」といっても、いったい何を(何に関する権利を)取引しているのかさえ明確ではないケースも少なくない

民法上、所有権の客体となる「物」(民法206条参照)とは、「有体物」を指すとされます(民法85条)。さらに、東京地裁平成27年8月5日判決は、ビットコインについて有体性を欠くため所有権の対象にはならないと判示しています。

つまり、NFTは、ビットコインなどの暗号資産と同様に、ブロックチェーン上のデジタルトークンとして発行されデータとして存在するにすぎず、有体性を欠くため民法上の「物」には該当しません。

つまり、日本における現行の民法・著作権法上では、NFTについてのデジタル所有権は法定されていないのです。

勝手にNFT化されるアーティストの作品たち

このように法的に所有権を認められないNFTではありますが、さらにはデジタルコンテンツの作者でなくても、トークンをつけることで誰でも自分のモノだと主張できる可能性もあります。そこで、出どころが不確かな盗難品が紛れて込んでいることも事実です。

実際に、アーティストの中には、自分が許可していない自分の作品に関連したNFTを発見した人もいます。

例えば、Twitterで活発に作品公開する新進気鋭のデジタルアーティスト、コービン・レインボルト氏。少なくとも彼の2作品が同意なしにNFTとして販売されていたと言います。そこで彼は、最近制作した作品のほとんどをTwitterから削除し、再び盗まれないように透かしを入れて再投稿しています()。

ブロックチェーン上で記録されるNFTの取引ですが、実名や身分証明書を明らかにすることは必須として要求されません。そのため盗難品が交わされる恐れがあるうえに、ブロックチェーンの台帳は不変であり、それを管理する中央機関も存在せず、すべての取引は事実上永続的です。

利用規約として、著作権侵害の疑いを訴える機会は設けられますが、NFTサービスを販売しているNBAやIOC(国際オリンピック委員会)、Perfumeのような正式な商標がない場合、誰かよりもインターネット上で何かを作ったと証明するのは難しいでしょう。NFT自体が盗まれる可能性もあります。

元CIAのプロハッカーで、オバマ大統領下でサイバーセキュリティを担当していたエリック・コール氏。彼は、「NFTにもブロックチェーンにも、盗難から守るものは(現段階では)なにもない」と断言しています()。

このように、NFTを活用したビジネスは急速に発展しながらも、その法的位置づけやNFTの取引への法規制や権利関係の整理は十分に追いついていないというのが実情です。

NFTのハッキングやNFTアートの著作者と購入者間で権利関係を巡り、いさかいや非常事態が生じたときに、法に基づいた問題の所在や解決策の判別がつかないという点は、念頭に置いておいた方が良いでしょう。

デジタルコンテンツのコピーでは物足りない?

インターネットのおかげで、例えば画像データのようなデジタルコンテンツは簡単に複製ができ、希少性はほとんどありません。つまり、NFTを所有していても、それを持っているという本質的な価値はありません。

とはいえネット上にはコピー画像が溢れかえっているといっても、どんなにモナリザの絵を精巧に再現したとしても、人はそのコピーには価値を感じないように、コピーでは人の心を満たすことができません。

それでもNFTを所有するという価値観

例えば、ある人が本物のアートや高いスポーツカーなどを所有できる力について考えるとき、そのアイテムを製造するときにかかったコストとは関係なく、“持っている”という感情が持つ、ある種の感情的価値を得ることができます。

つまりNFTがデジタルの世界で起こしている革命、つまりそれでもNFTを所有したいと人に思わせる新しい価値観とは、デジタル資産を所有するという新しい感覚、つまり感情的な価値を生み出しているということです。

アーティストとNFTとの深い仲

そして、NFTとアーティストとは切っても切れない仲にあり、業界の新天地を切り開いています。


アーティストの新たな収入源・音楽業界の新天地として

ひとつにアーティストの新たな収入源としての側面です。例えば、歌手のショーン・メンデスは、NFTを利用して、ギター、ネックレス、ベスト、イヤリングのデジタル版をファンに販売。ファンはそれらのアイテムをデジタルアバターに使うことができます。

また、他のアート作品とは違って、NFTの場合は著作権使用料が組み込まれているため、売買されるたびに、オリジナル制作者であるアーティストやクリエイターにもマージンが支払われます。

このようにNFTはコロナ渦で収入源に苦しむアーティストたちや音楽業界にとっても新天地を切り開くものでもあります。

例えばショーン・メンデスのマネージャーであり、マネージメント会社AG Artist創業者のアンドュー・ガートラー氏においても、「コンサートツアーのビジュアルアーティストなどが仕事を失い、生活のためにNFTを利用しています。多くのクリエイターに新たな収入源ができたことは、本当に素晴らしいことです」と、NFTの存在を大いに歓迎しています()。

まとめ

日本における法による所有権が認められていないNFT。しかしアーティストの新たな収入源として、また、アート、エンターテインメント、スポーツ、音楽、メディアといった業界の新天地を開拓するものだと広く活用されています。そのベースとなるのが、デジタル資産を所有するという新しい感覚、つまり、感情的な価値です。今後、市場のニーズに伴うNFTに関する法改正にも期待が高まります。

NFTや暗号資産など、ブロックチェーン技術にご興味のある方は当社に是非ご連絡ください。

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