メタバースを運営する事業者としてはVRChat Inc.(VRChat)・Cluster(Cluster)・EPIC Games(フォートナイトのクリエイティブモード)など多数の組織が存在します。これら事業者はプラットフォームと呼ばれるメタバース実行環境をユーザーへ提供し、この上でユーザーが作成した「ワールド」というデータ記述された3Dの世界が動いています。メタバースプラットフォームのシステム構成について事業者からほとんど情報が公表されていませんが、ほぼ唯一ワールド作りの開発ツール・ワールドの描画エンジンに用いられるゲームエンジンと呼ばれるツールについてはユーザーへ情報開示されています。本稿ではメタバースの描画性能を決定づけるこのゲームエンジンについて考えて行きます。
ゲームエンジンのシェア獲得状況
ゲームエンジンは、3Dデータを立体表現するソフトウェアです。現在、ほぼ例外なくメタバースプラットフォーム事業者は、ゲームエンジンと呼ばれる描画環境を使って描画しています。ゲームエンジンにはユーザー用開発ツールが付属しており、ユーザーがメタバースを作るとき・事業者へアップロードするときはこの開発ツールを利用します。
実際に各メタバース運営事業者が採用しているゲームエンジンを見ていきましょう。
主要メタバースが採用しているゲームエンジン
No | 事業者名 | メタバース名 | Unity | Unreal Engin |
1 | EPIC Games | Fortnite (クリエイティブモード) https://www.epicgames.com/fortnite/ja/home | ✓ (自社製) | |
2 | VRChat Inc. | VRChat https://hello.vrchat.com/ | ✓ | |
3 | Cluster | Cluster https://cluster.mu/ | ✓ | |
4 | Meta | Horizon Workrooms https://www.meta.com/jp/work/workrooms/ | ✓ | |
5 | Reality (グリー) | Reality https://reality.inc/ | ✓ | |
6 | DMM.com | Mid Mega City ※立ち上げ準備中 | ✓ |
シェアは現状Unity優勢ですが、これは元々Unreal Engineがメタバースを主戦場にしておらず、処理の重いパソコン用オンラインゲーム分野向けに開発されてきたためです。最近このバランスが変わる動きがあり、Unreal Engineはメタバース分野でのシェア拡大を目指して攻勢が続いております。例えばDMM.comはUnityベースのメタバース「DMM Connect Chat」を提供していましたが2022年8月31日でサービス終了、Unreal Engineベースの新たなメタバース「Mid Mega City」を立ち上げ準備中とのことです
( https://dmm-corp.com/press/corporate/1558/ )。
また、ソニーAmericaがUnreal Engine開発元のEpic Gamesへ追加出資すると2022年4月12日に発表しました
( https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/news/20220412_J.pdf )。
EPIC Games側はソニーと他1社から調達した今回の計20億ドルをメタバース向け開発に投資すると発表しています( https://www.epicgames.com/site/en-US/news/sony-and-kirkbi-invest-in-epic-games-to-build-the-future-of-digital-entertainment )。
Unreal Engine
Unreal Engineは、メタバースのワールド作成ツールとしてよりも、高品位な3D描画できるゲーム開発ツールとして認知されています。「フォートナイト」「ファイナルファンタジー7リメイク」など有名オンラインゲームの多くがこのゲームエンジンを採用しています。メタバースとして有名なのはフォートナイトの持つクリエイティブモードで、ユーザーが街や建物を追加できる事実上のメタバースになっています。その他、Unreal Engine開発環境にはゲームルールの実現、物体へリアクションを与えるギミック付加などロジックを少ない労力で作成できるツール・素材が充実しています。アルゴリズム作成は、Unreal Engine内蔵ツールblueprintを用い、コードを開発者がテキスト記述しないビジュアルプログラミングで進めます(一部、C++言語を補助的に使用)。ハードウェアに対する性能要求は高く、スマホなどの低性能デバイスよりもグラフィックボード搭載パソコン等でのプレイに向いています。
Unity
Unityは、VRChat・クラスターなど現在多くの主要メタバースの中核機能として採用されています。動作が軽くハードウェアへの性能要求が低いことから、スマホから高性能パソコンまで幅広い対象機種向け開発に向いています。動作が軽いことを生かし「ポケモンGO」などのスマホゲームにも多く採用されています。
Unityのビジュアルプログラミング環境は過渡期です。Unityには元々ビジュアルプログラミング環境がなくC#言語でテキスト記述していました。対策としてメタバースVRChatは自社製ビジュアルプログラミング開発環境Udon(うどん)を用意していましたが、VRChat以外のメタバースユーザーはその恩恵を受けられませんでした。その後Unityがどのメタバース向けでも使えるようビジュアルプログラミングツールVisual Scripting(旧称 Bolt)を内蔵・無償化したため、今後この環境利用が主流になると思われます。
UnityとUnreal Engineのビジネスモデルの比較
Unreal Engine・Unityどちらを利用しても事業者はビジネス立ち上げ時に開発ツールを無料で利用可能で、そのワールド・ゲームが高額売上を発生させた成功段階で初めて事業者へ課金が発生します。もちろん一般ユーザーへのUnreal Engine・Unityからの課金は発生しません。つまりツール無償利用でスタートアップできるよう料金体系が工夫されています(Unreal Engine4 → 5へのバージョンアップ以降、課金基準が大幅緩和されています)。無料で十分満足できる開発環境を提供できたことが、Unreal Engine・Unityのビジネスモデル成功要因になっています。Unreal Engine・Unityなど汎用ゲームエンジン登場以前は各社でゲームエンジン相当機能の自社開発が必要で、開発後も維持開発のコストを自社売上から賄う必要がありました。事業者にとって汎用ツール導入には、初期投資の抑制・維持開発費の抑制・バグの早期改修・自社にない高度技術導入など多くのメリットがあります。
まとめ
道具は充実しているので後はやる気とアイデア次第
一時期、ゲームは自社ツールを充実させている体力・経験のある専門会社でなければ制作できない、と言われていました。しかし誰でも利用できるUnity・Unreal Engineの登場・充実によりゲーム制作ビジネスは参入障壁が極めて低くなっており、資金力も必ずしも必要なく、あとはやる気とアイデア次第という状況です。
オンラインゲームとメタバースの普及がうまく相乗効果を現してくれば、大きな市場の形成が期待できます。
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