ワールドの作成から考える今後のメタバースビジネスとは?

ワールドの作成から考える今後のメタバースビジネスとは?

メタバースは時間・場所・距離・物理法則に縛られることなく、頭で想像した世界を体験できる場で、その仮想世界は「ワールド」と呼ばれています。ワールド作りは専門家でないと難しいのでは?と考えがちですが、実際には無償ツールで構築可能で、利用できる3D素材も流通しており自分で作り始めるのは難しくありません。有償・無償の3D素材は、各種配付サイトで取引されており、その市場規模も拡大しています。いくつかの約束事を理解しておけば、これら資源を利用して見栄えの良いワールドを作るのも困難ではありません。

この記事では、商談機会目的・自社アピール目的でよく作成されるメタバース上の自社オフィスを試作し、配付サイトの3D素材を利用したワールド作りの過程、また今後のメタバース関連ビジネス展開について考えていきます。

ワールドの初期化と作成スタート

Unityという無償3次元モデリングツールを使い、Clusterというメタバース向けのワールドを作っていきます。なお記事特徴上、Unity一般操作の詳細説明は省略します。

Clusterからは、より直感的な操作だけでワールドを作成できる「ワールドクラフト」という新しいツールも提供されていますが、今回なるべくCluster特有の機能に依存せず、他社のメタバースでも汎用的に通用する手順を用いて構築します。

UnityHUB・Unityエディタ(バージョン2021.3.4f1)を入手する

UnityエディタからClusterへ作成したワールドをアップロードする時、Cluster提供のCluster Creator KitというUnityパッケージが必要です。このパッケージは利用できるUnityエディタのバージョンが指定されているので、UnityHUB ( https://unity.com/ja/download ) というバージョン管理ツールが必要になります。従ってまずUnityHUBをインストールした上で、そこから指定バージョン2021.3.4f1 (※2022年9月1日現在)のUnityエディタをインストールします。この版のUnityエディタを使ってワールドを作成します。UnityHUB使用にあたっては、アカウント作成が必要になります。

新規3Dプロジェクトを生成する

UnityHUB上でワールドの原型となる新規3Dプロジェクトを作成します。このプロジェクトは、Unity標準のプロジェクトで、Clusterに依存していません。ネット上の記事として、古いUnity向け手順が出回っているので、参考のため少し詳しく説明します。

UnityHUBで新規3Dプロジェクトを作成

作成するとUnityエディタ上でプロジェクトが開くので、Cluster Creator Kitを開いたプロジェクトにインストールします。まず、Project SettingsメニューからCluster Creator Kitパッケージをダウンロードします。
UnityエディタからCluster Creator Kitをダウンロード

ダウンロードできたらPackage Managerを使ってCluster Creator Kitをインストールします。

ダウンロードしたCluster Creator Kitをインストール

インストールに成功すると、下図のようにUnityエディタのドロップダウンリストに「Cluster」という新しいメニューが追加されます。またPackage Manager上でもMy Registriesメニュー上にCluster Creator Kitが表示され、インストール完了が確認できます。
Cluster Creator Kitのインストール成功

下準備が出来上がったので、Unityエディタを使ってワールドを構成する様々な3Dモデルを配置していきます。このモデル配置の部分はClusterに依存しない部分です。

Unityエディタ上で3Dモデルを配置

ワールド作りにはお約束があります。ワールドの場合、一般的な3Dモデル作成の他、最低でもワールドとして機能するため以下の3要素を配置しておく必要があります。
ワールドに必要な3つの要素
  • Spawn Point (スポーンポイント)
    アバターがワールドへ登場する時の出現場所と体の向きを示します。スポーンポイントへのアバター出現は、最初にワールドを立ち上げた場合・後述のデスポーンハイトから復旧した場合、の両方で発生します。
  • Collider (コライダー)
    アバターには設定により下向きの重力が働いており、アバターの体を支える地面が存在することでアバターは地面の上を歩行することができます。アバターが地面をすり抜けて落下しないよう、地面にはコライダーと呼ばれるアバターとの衝突を検知する属性を付加しておきます。コライダー属性は、地面の他にもアバターが壁を突き破るのを防いだり、階段や2Fの床を突き抜けて転落するのを防いだりする目的で付加されます。
  • Despawn Height (デスポーンハイト)
    アバターがコライダー属性のある場所から外れたところを歩くと、体の支えを失い無限落下して制御不能に陥ります。制御不能を回避するため、アバターが一定の高さまで連続落下したら落下を停止させ、スポーンポイントへ強制的に再出現させます。この高さを持つ平面をワールド内に配置しておきます。

既製の3Dモデルを導入

全ての3Dモデルの建物や家具の作成を、円柱・立方体、といった基本立体の組み合わせで完成させることは可能ですが、それでは膨大な作業が発生し、現実的ではありません。そこで「アセットストア」と呼ばれる既成品の3Dモデル配付サイトから資源(アセット)を導入して効率化します。

ここではいくつかの配付サイトを紹介します。この他にもTURBOSQUID ( https://www.turbosquid.com/ja/ )、BOOTH ( https://booth.pm/ja )など多くの3Dモデル配付サイトが存在します。

Unity Asset Storeの配付モデル「雲」

「Unity Asset Store」は名前の通り、Unityが運営するUnityエディタに特化した配付サイトです。ブラウザ・Unityエディタのどちらからでも参照可能で、無償・有償含め多様な3Dモデルを配付しています。配付物は、自然現象・樹木・ビル・家具・小物、など多岐に渡り、Unityエディタのネイティブ形式で入手できるので、入手したモデルは作成中のワールドへすぐ配置することができます。

CGTraderの配付モデル「ビル」

CGTraderは各種の有償・無償3Dモデル配付サイトです。配付データは汎用で、特定ツールに依存していないので、配付データ毎に様々なフォーマットが採用されています。主力フォーマットは .fbx、.obj、.unitypackages(Unityのネイティブ形式)、などです。配付物のジャンルは多岐に渡り、建築・家具・自動車・植物・テクスチャ(布・芝生・床板・…)などが取り扱われています。データの品質は高いが、自分の目的に合うものかどうか見極めるのが難しく、多少運次第のところがあります。


  • その他、NFTマーケットプレイス
    3Dモデル売買の中心が3Dモデル専門サイトに特化しているので、NFTマーケットプレイスでのデータ出品数は少ない状況です。OpenSeaでは現状取り扱いがほぼありません。下図はFoundation ( https://foundation.app/ )での3Dモデル販売例です。
NFTマーケットプレイスFoundationの配付モデル例

作ったワールドをメタバースへアップロードする

UnityエディタからClusterへ作成したワールドをアップロードし、実際に作ったワールドを訪問してみます。アップロードの前に、Clusterホームページ ( https://cluster.mu/ ) 上でアカウントを取得しておき、ワールド訪問アプリをダウンロードページ( https://cluster.mu/downloads )からダウンロード・インストールしておきます。アカウント取得時、アカウントに紐付く秘密情報「アクセストークン」がひとつ発行されますが、アップロードデータはこのトークンを鍵として管理されるため紛失や漏洩に注意します。

前述のUnityエディタのメニュー Cluster –> ワールドをアップロード、を実行すると、下図のようなワールドアップロード画面が現れます。

Clusterへのワールドアップロード

ワールドを新規作成する場合は、

  • ワールド名・・・この名前でこのワールドが管理される
  • ワールドの説明・・・ワールドの概要として管理される
  • 画像の選択・・・ワールド名と共に表示される(予めUnity上でスクリーンショットを撮っておくと良い)

を指定してアップロードします。既に作成済みのワールドへ上書きする場合は、上書き対象を「作成済みワールドから選ぶ」から選択してアップロードします。なおデフォルト状態では作者しか入れない非公開ワールド扱いになるので、公開したい場合は下記「マイコンテンツ」画面上で設定変更します。

アップロードが成功すると、ブラウザが呼び出されCluster上の自分のアカウント「マイコンテンツ」ページが開きます。同じページはブラウザからアカウントログイン後「マイコンテンツ」ページ( https://cluster.mu/account/contents/worlds )からもアクセスできます。

Clusterにワールドがアップロードされた

このページの「ワールドに入る」をクリックすると、Clusterアプリが起動してワールドに参入できます。アバターを操作してワールド内でプレイします。下図はワールド参加アプリ内で自撮りをしている様子です。

ワールド内での自撮りの様子

どんなワールドを作るべきか

以上見てきたように、ワールド作成に手を出し始めるのはそれほどハードルが高くありません (凝ろうと思えばいくらでも手間が掛かりますが…)。一番難しいのは、どんなワールドを作るのか企画することです。

特にビジネス用途の場合、魅力的なワールド作りと共に、どこでマネタイズするのかビジネスモデル検討する必要があります。

現在メタバースのビジネス応用が最も進んでいるのは展示会などの宣伝分野で、例えば、

  • カンファレンス(プレゼン・トークイベント・東京大学メタバース工学部・角川ドワンゴ学園N高校/S高校)
  • 採用セミナー
  • 展示会
  • 音楽ライブ
  • ファンイベント
  • アバターや3Dモデルの即売イベント(VRChatメタフェスなど)

などが実際に開催されています。コミュニケーションツールとしてのメタバースは次世代SNSなどと呼ばれる場合があり、広告・広報・セミナーとの親和性は高いようです。

従来なら東京ビッグサイトなど使用料の高い会場確保が必要なイベントを、時間・期間の縛りなく開催できるのはメタバースの大きなメリットです。Clusterでも法人営業部を設け、仮想空間でのカンファレンス招致活動を積極的に行っています。特にパソコン関連機器やソフトウェアなどの広告の場として、メタバースは親和性が良いようです。

このようなイベント運営を一括で請け負う新興企業は他にもV-expo・HIKKY・ecloreなど複数存在するようです。

また、イベント運営以外にもメタバースのビジネス応用はアイデアレベルならいくつも考えられます。

  • アスレチックジムやお化け屋敷などのアトラクション(反物理現象・超常現象が起きる)
  • 水族館などの体験型学習
  • 未来都市・映画「ウェストワールド」のような過去の都市への訪問体験
  • 住宅展示場・オフィス内覧会(アバターが歩き回るのでイメージをつかみやすい)
  • 兵棋演習(軍・自衛組織による机上作戦演習)
  • 仮想の神社仏閣巡り

など、今後のメタバースビジネスへの展開が期待できそうです。

今後もこちらでは、NFT関連の役立つ情報をお届けしていきます。NFTや暗号資産など、ブロックチェーン技術にご興味のある方は当社に是非ご連絡ください。

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